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有望な南米の日本酒市場と、南米最大のチリ鑑評会【カタドールコンペティション】

海外での日本産酒類に対する需要が高まる中、世界各地で日本酒や焼酎の審査部門を設けるコンペティションが開催されるようになりました。その舞台は主にロンドン、パリ等のヨーロッパや、香港、シンガポールといったアジアですが、2021 年より南米チリでも行われて、2024年で 4 回目を迎えます。

南米で唯一の日本酒審査部門を有する鑑評会「カタドールコンペティション」の概要、近年注目が集まる南米市場について紹介します。

※ 上の写真左からBe-Bridger株式会社 代表取締役社長の小泉和貴さん、日本酒輸出協会会長の松崎晴雄さん、株式会社南部美人の代表取締役社長 久慈浩介さん

有望な南米の日本酒市場

南米市場の魅力について教えてくれたのは、株式会社SAKEマーケティングハウスの代表取締役、日本酒輸出協会の会長を務める松崎晴雄さん。「南米は経済発展が続いていて、最後のフロンティアとして、日本の輸出先、取引先として注目される市場」であり、「日本酒が南米市場に進出することは、今後の輸出戦略において非常に意義がある」ことを、詳しく教えていただきました。

南米料理との親和性

南米料理は世界的に注目されて、中でもペルー料理が有名です。現地レストランの実力もかなり上がってきて、世界のトップレストランのいろんなランキングに結構入っています。

南米は、じゃがいも、唐辛子、ナス、ピーマンなどが原産で、もともと食材豊かな国です。ブラジルの肉食文化、チリの水産資源も有名で、チリ産サーモンや生ウニが安く食べられる点が非常に魅力的です。食文化としても、日本酒に非常によく合い、可能性も非常に大きいと思われます。

南米の宗教と言語

南米のほとんどの国はカトリックで、アルコールに関しては寛容です。
言語はブラジルがポルトガル語ですが、ほとんどの国は公用語がスペイン語です。
宗教、文化、言語の統一性があるのは、非常に大きなメリットです。伝播のスピードが速いので、例えばどこかの国で一つ日本酒を取り上げられると、周辺諸国に広がっていく波及効果と言う点でもメリットがあります。

南米向け日本酒の輸出の推移

南米は比較的順調に輸出金額も伸びていて、南米で一番大きいのはブラジル、金額で2億円弱。世界では数量で15位、金額でリッター当たりの単価が500円で18位です。(2023年財務省通関統計)チリは2023年初めて輸出金額で500万円を超えたくらいですが、非常に順調に金額が伸びている点と、単価がリッターで700円を超えて高い点が注目されて、高級酒が受けられる可能性があります。

南米市場のターゲット

日系人は古い時代の日本酒のイメージを持っている層が多く、日本食レストランが多かったり、日本食のコンビニの販売店が多かったりしますが、置いてあるのは普通酒系のお酒やブラジル現地産の単価が安いお酒だったりします。アメリカ、香港やシンガポールのように、その品揃いが豊富で、お店の店舗がずらっと並んでいるという感じではなくて、日本の一般的なそのスーパーの酒屋みたいなイメージがあります。

ペルーは観光資源が豊富で、世界中から観光客が集まるので、現地の高級レストラン、日本料理店とか、あるいは日本食をルーツにしたフュージョン系のレストランで食事をして、高価な日本酒を飲まれています。

現在の日本酒の消費を牽引しているのは、若い、ヤングエグゼクティブ層、頻繁に海外に旅行やビジネスへ出かけている層です。今後南米をターゲットに日本酒を輸出していくなら、日系人の需要を狙うのではなくて、やはり現地マーケット、南米料理の高級店、現地の富裕層、海外への経験豊かな人たちをターゲットに、高価な日本酒をアピールしていくべきと考えます。

距離、関税、輸出規制の問題

最大の課題は「遠いこと」です。実際に飛行機に乗っていくと、最短のルートとっても25時間、1日以上かかります。物理的な距離の遠さは、移動、輸送に影響しますが、遠いために情報がなかなか届いていかないとか、あるいは情報の量が少ない問題もあります。普通酒が多い状況にあるのは、情報不足が一因かと感じています。

南米だけではありませんが、もう一つの課題は「高い関税と輸入規制」です。例えばアメリカとかアジアの国への輸出時には最初のみ検査が必要ですが、南米の場合はその都度検査をしなければいけないので、コスト高の要因になり、日本酒の輸出に影響を与えています。

ワイン業界とのコラボ、日本酒コンペティション

チリ、アルゼンチンはワインの大生産国であり、スペイン・ポルトガルの植民地であったころから、ワインを中心にしたアルコール飲料、 食文化の基盤ができています。ワイン業界とのコラボレーション、情報交換を重ねながら、日本酒の認知、存在感を高めるのは有効で、南米最大級のワインコンペティションに日本酒部門を通じて日本酒の存在感を示す重要な戦略となり得ると考えます。

カタドールコンペティションとは

続いて、南米最大級のワインコンペティションの概要、これまでの取組について、Be-Bridger 株式会社の代表取締役 小泉和貴さんから詳しい説明をお聞きしました。

カタドールコンペティション(Catad’Or Competition)は、南米チリで1995年から開催されている南米最大級のワインコンペティションです。2024年で 29 回目を迎えます。主要なワイン生産国であるチリで行われ、南米で最も影響力のあるコンペティションとも言われています。

2021年には日本酒部門が新設され、年々出品点数を増やしています。2023年度からは「WORLD WINE AWARDS」のSAKE部門として審査が行われ、焼酎やクラフトジン、ゆず酒なども審査されました。

日本人審査員として、上野俊男氏(米国在住、Sake School of America校長、第11回酒サムライ叙任)と松本真梨子氏(チリ在住、国際唎酒師、JSA認定ソムリエ)が2022年から参加し、日本酒審査部門初参加となる英国のマスター・オブ・ワイン(MW)、アリスター・クーパー氏も審査員に加わりました。

「カタドールコンペティション2023」にて、日本から出品した12社25銘柄の日本酒(内1銘柄は焼酎、5銘柄はリキュール)が受賞、特別金賞に輝いた生産者には賞状が贈られ、最高金賞(特別金賞の最上位)には、賞状とトロフィーが贈呈されました。そして、日本酒カテゴリーの最高賞として特別に与えられる称号「Mejor Sake」を「南部美人 純米大吟醸 心白 山田錦」(岩手県二戸市・株式会社南部美人)が授与しました。

蔵元視点での南米市場における日本酒の可能性と課題

2023年「Mejor Sake」を受賞した株式会社南部美人の代表取締役社長 久慈浩介さんは、「私は今年南米に3回行きます。遠い遠いってみんな言ってますけど、遠くないですよ。アメリカまで行けば、そこから10時間ぐらいで行っちゃいますから、全く遠くないです」と、南米市場における日本酒の可能性と課題について、蔵元視点で熱く語っていただきました。

日本酒の輸出、冷蔵管理の重要性

日本酒をチリに直接送るのは難しいが、現在はロスの共同貿易本社の冷蔵庫から、リーファーコンテナで二次卸納品しています。近い将来は日本から直行便に変更予定です。日本酒は冷蔵管理が重要であり、チリ在住で唯一の日本人インポーター、ハロスールの西井さんを通じて、0~5℃の冷蔵管理を徹底しています。

チリの和食レストランの状況、未開拓性

チリは南米の中でも経済的に豊かであり、チリの和食レストランでは、日本酒の需要が高いが、これまで供給が追いついていなかったため、南米市場はまだ未開拓です。

現在は現地インポーターが、サンチャゴのレストラン上位30~50軒にアプローチをかけていて、久慈さんが現地の和食レストランを視察した際「とにかくよく来てくれた、もっと来てくれ」と熱烈歓迎してくれたそうです。現地の商工会議所の日本人と話しても、半ば日本酒を飲むことを諦めていて、実際に和食レストランなのに9割9分のお客さんが、ワインを飲んでいたそうです。
日本酒の市場を拡大するためには、現地の需要に応える努力が必要であり、酒蔵が積極的に進出することで新たな市場を開拓できる可能性が伺えます。

南米コンペティションの反響

南米最大級のワインコンペティションの日本酒カテゴリーの最高賞の反響について、久慈さんは「カタドールで受賞させていただきまして、チリ国内でこの賞を見せれば間違いなく、酒類関係者はほぼ全員の人が知っているというような状況です。アメリカで賞を取ったと言っても、市場が大き過ぎてあまりピンと来てくれないんですよね。でもチリの市場はまだ小さいので、カタノールで賞を取ったといった瞬間に、すごいすごいって言ってもらえる。そういったメリットは感じています」との感想をお伝えいただきました。

カタドールコンペティション2024

2024年 11 月、南米チリ・サンティアゴにて開催されます。日本からの審査員が新たに加わり、審査員の更なるレベルアップを図ると共に、このコンペティションをきっかけにチリのみならず、南米市場全体への日本産酒類の周知と、市場拡大、輸出促進が望まれます。

コンペティションスケジュール
申込期限:2024年10月11日(金)
出品酒到着期限:2024年10月18日(金)
審査期間:2024年11月11日(月)~11月13日(水)
授賞式と結果発表:2024年11月23日(土) 

審査部門
①World Wine Awards:ワイン、日本酒
※まだ日本酒出品点数が少ないため、特定名称別の部門分けはありません。
②World Spirits Awards:焼酎、ジン、ウォッカ、ラム、ピスコ、リキュールなど

審査方法、審査員
全てブラインドでテイスティングが行われ、ワイングラスを使用します。1グループ5〜6名で構成され、各自テイスティングした商品に対して、点数を付け、審査員間で点数に乖離があった場合、グループ内でディスカッションを行い、最終的な点数を決定します。審査は1回のみ。
 
最高金賞:特別金賞の中から最高点を獲得した商品が最高金賞酒として表彰されます。
特別金賞:93点以上
金賞:89点〜92.9点以下
銀賞:85点〜88.9点以下

審査委員はチリ人を中心とした北米、欧州などでワイン業界に精通したソムリエ、ワインメーカー、バーテンダーの方々などが務める。(昨年の実績:18カ国から計69名が審査員として参加)2024年は新たに松崎春雄氏と酒サムライを叙任した太田ファビオ氏(ブラジルインポーター)が審査員に加わります。

エントリー条件
1~4アイテム:130ドル
5~10アイテム:117ドル
11アイテム以上:104ドル
500ml、720ml:2本

申込方法
①酒蔵自身で申込・出荷手配(カタドール公式HPよりオンライン登録) 
Be-Bridger株式会社を通じて申込(登録、出荷手配、現地事務局との交渉サポート有)

Be-Bridger 株式会社の代表取締役 小泉和貴さん曰く「カタドールコンペティションはまだまだ日本での認知度は高くはありませんが、日本酒文化定着に向け、一つキーとなるコンテンツだと感じております。より審査部門を充実させて、今後の日本酒業界20〜30年後を見据えて、色々とハードルはございますが、海外の新規市場の開拓に繋げて参ります」とのことです。

2021年~2023年受賞酒

チリ共和国の面積は日本の約2倍で、人口は1,949万人(2021年)、首都はサンティアゴ、民族は欧州系87%、先住民系13%、言語はスペイン語、宗教はカトリック(15歳以上人口の70.0%)、平均月収は約10-15万円です。
1970年代初めより他の中南米諸国に先駆けて、国家主導型産業育成政策から民間主導の開放経済へと政策転換。その後1980年代初めの債務危機を克服し順調に持続的成長を達成させたことから、中南米の「優等生」と評され、国際社会における評価も高いとされています。(外務省HPより)
南米市場で、先行する和食のレベルは高く、グレードの高い日本酒の進出が求められています。文字通りフロンティア精神を持って新市場へ挑戦する酒蔵と輸出事業者を「おいしいSAKE」は応援しています。

この記事は私が取材しました。

おいしいSAKE 編集部

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